―─新井さんはどのようなきっかけでこの「おちゃとらの会」を始められたのですか?

新井: はい、長女が1歳半から童話館の絵本を毎月とって読み聞かせを楽しんでいたのですが、上の娘が小学生、下の娘が年少になった時に、自分の子供の成長とともに絵本を読み聞かせるのがだんだん少なくなって寂しくなるような気がして、自宅で下の子のお友達を招いて、お菓子を作って絵本の読み聞かせをする会を作ったのが始まりです。

 ―─絵本の読み聞かせの会ということですが、どのような会ですか?

 新井: 今は、未就園児、幼稚園児の親子の会、大人の会になっていて、子供の会も大人の会もノンシュガー、卵、牛乳なしのお菓子を手作りし、みんなでそれをいただいた後、絵本の紹介、子供はわらべ歌などを歌ってから、紙芝居、絵本やパネルシアターなどの読み聞かせというプログラムになっています。

 ―─絵本の大人の会とは気になりますが、どのようなことをなさるのですか?

 新井: 皆さん子供の会から親子でいらっしゃって下さって、でも子供の成長と共に子供の会にはいらっしゃれなくなり、でもまったく縁がなくなってしまうのも…ということで思い切って大人だけで集まってみたのです。大人の会はアロマをやったりします。例えば香りのある絵本とアロマをリンクさせてみたり。「ジャイアントジャムサンド」という絵本でははちみつが出てくるので、はちみつとアロマで保湿剤を手作りしました。私自身もおもしろいなぁとおもってやっているのですよ。

 ―─10年以上続いていらっしゃるということですが、長く続けられる理由はありますか?

 新井: 先ずは本当にいろいろな方たちに出会える楽しさがありますね。子供もかわいいですし。そして、絵本は私、お菓子作り担当、アロマ担当と3人でやっているのですが、毎回お菓子やアロマを私自身も楽しみにしている部分もあるのですね。そしてこの会は、会費として毎回1000円をいただいているのですが、その会費をそのまま童話館基金として寄付させていただいているのです。それが大きいですね。この基金は、イラクやバスラに病院を作ったり、カンボジアに小学校を建てたり、というようなことに使われているのです。私は、日本に生まれて、ここで育っていられるというのは物質的にも、精神的にも恵まれていると思うのです。で、大変な思いをしていらっしゃる方々になにか少しでも役に立てたらなぁという思いもあって。今年は東北の方々に絵本を送ったりというのにも使われているのですよ。

 た、最近の楽しみの一つなのですが、絵本を読んだあとに感じたことを話してもらうのです。いい絵本はいろいろな見方が出来るのですよ。ある人に、いい本はいろいろな意見がでてくる、でも平板な本は、同じような意見しか出てこない、といわれて、試しに聞いてみたのですよね。そうしたら、ほんと、皆さん一つの話からいろいろな部分で、いろいろなことを感じていらっしゃるんだなということがわかって。主人公に自分を重ねたり、それが娘だったり、親子関係や友達とのことなんてホント様々で。いいといわれていても、自分ではしっくりこなかった本もそういうことだったのか、と気づかされたり。お得?というのか、面白いなぁって純粋に思えるのですよね。

そして、絵本を通して知り合った方たちのおかげで自分も成長できるし、精神的なところで深くつながれるようで、大切にしたいな、と思います。

 ―─「おちゃとらの会」とは面白い名前だとおもうのですが、由来は何ですか?

 新井:「おちゃとら」とは「お茶の時間に来たトラ」という絵本にちなんでつけているのです。

この絵本は、ある日お母さんと娘がお茶の時間にしているとベルがなり、トラがやってくるのですが、お茶をあげても、お菓子をあげてもまだまだ足りなくて、けっきょく家中の食べ物をたべつくし、水道の水も飲み干して、帰っていくのですね。で、夕飯をどうしようかと考えているとお父さんが帰ってきて、じゃぁレストランで食べればいいじゃないか、と出かけていき、帰りにタイガーフードを買って帰るという話なのですが、その大らかさが大好きなんです。動じない、っていうのかなぁ。そうありたいと思うのですよね。この話のトラは子供みたいだな、って思うのです。予想外のことをしてみたり、食べつくしちゃったり。そんなときにおおらかでいられたらいいなと。むずかしいのですが。そして、この会はおうちにお招きしてお茶をして、という会なのでちょうどぴったりかなと思って。

 ─ところで、逗子葉山ならではのおすすめの絵本といのはありますか?

 井: 逗子や葉山が舞台になっているわけではないのですが、逗子葉山といえば海と山ですよね。

海で好きなのは「たーちゃんとペリカン」たーちゃんが海でなくした長靴をペリカンが見つけて…潮の満ち干きとか、海の近くにすんでいるからこそわかるかなぁと。山は「木はいいなぁ」ですね。前、逗子の蘆花記念公園からあがっていくハイキングコースの尾根の途中に木のブランコがあってこぐと海に飛び出すような感じのするブランコだったんですよね。その情景を思い出させるような1冊です。

―─新井さんはお二人お子さんがいらっしゃるとのこと。子育ての中、読み聞かせを通してお子さんはどのように成長なさいましたか?

 井: 私の子供は娘2人でもう中学生以上なのですが、読み聞かせから始まって、2人とも本は好きですね。今ではお互いこの本よかったよ、なんて読みあったりしているのですが、3人で捉え方が違ったりして面白いですね。親子で共通の話題が持てるというのも魅力です。子供が成長するとそのありがたみを感じます。たまに本のカルトクイズみたいなことをしたりして。このシーンで主人公はなんといったでしょう?とかね。そして私自身、絵本の恵みに支えられ、子育てがとても豊かになりました。 

―─新井さんが子育てで大切にしていることはありますか?

 新井: んー「ユーモア」ですかね。ユーモアって意識していないと難しいんですよね。

今の世の中、決して明るいだけではないと思うのです。景気もそうですし、震災もありましたし。原発とか。いろいろね。でも、そこをね、せめて家庭の中だけでも明るく。ユーモアを持って。そしてそれは言葉の力だと思うのですよね。言葉って、その一言で勇気づけられたりするじゃないですか。あの人のあの時の一言、みたいな。それを持てること。コミュニケーション力。言葉を使えることで、相手の気持ちを想像できたり、自分のことを表現できたり。ただ、なにか「もやもやといやだー」となるより、「何がこうだから、こうなっていやだ」とか。言葉の力を信じて大切にすることですね。