一寺山さんはつい先日も逗子で古本市を開いたそうですね。

寺山:年2回、春と秋に、逗子と葉山で古本市を開催したりしています。毎回ゆるいテーマを設けているんですが、最近では5月6日逗子文化プラザホールでアート関連本を中心とした“アート古本市”を開催しました。

古本市プロジェクトにかかわるようになったきっかけは、自分が本好きで、最初に行われた葉山の古本市に出店して、このあたりの本好きの人とつながりができたことです。発起人の方たちから引き継ぐことになったんですが、手伝ってくれる人がたくさんいるから、まあ何とかなるだろうと。今後も定期的に行い、本好きの輪を広げていきたいです。

 

 

一ライターのお仕事では食に関するお仕事も多いそうですね。

 

寺山:読書は雑読派ですが、料理関係の雑誌のライターをしている関係で、料理のエッセイとかはもちろん、小説などでも食事の場面とかについつい興味がいきます。でも食事の場面というのは、登場人物の人となりが描かれていたり、話の中でも重要なポイントだったりすることが多いんですよね。

で、今回は、食べ物の描写が印象的な本を紹介させてもらうことにしました。それこそ無数にあるので、今日は日本人の主食「ごはん」をテーマに絞って、大人の本1冊、子供の本1冊を紹介させていただきます」

一冊目は大人の本で、岡本かの子さんの『鮨』。ずっと前に読んだのですが、『ごはん』と考えたらまずこれが頭に浮かんできました。それほど印象的だったんだと思います。

食事というものを苦痛に感じていて、ものを身体に入れるということに嫌悪感さえ抱いている息子に、母が何とかして食事をとらせようと悩んだ結果、息子の前で鮨を握るんです。まな板や包丁をとことん清潔にして、きれいに手を洗って、食べ物とは美しく愛情溢れたものなんだということを分からせようとします。そこで、鮨なんですが、ネタはもちろん、その土台となるのが真っ白でつやつや光る飯だというのがポイントだと思うんです。子供の目にはそれがとてもピュアなものに映り、嫌悪感を忘れるどころか一つ、また一つと手を伸ばす。日本人にとって『ごはん』というのは、あたたかみをストレートに感じられるものですし、『ごはん』があったからこそ、この場面は親子の絆を強く感じるものとして心に残るのだと思います。

 

 

一 二冊目は絵本ですね。

寺山:はい、『やまのこどもたち』という絵本を紹介したいと思います。文は石井桃子さん、絵は深沢紅子(こうこ)さん。山に住む子供の何気ない暮らしを描いた本です。1956年のものなので、もうこんな暮らしは残っていないかもしれないのですが。お盆の時期は、家族がはく下駄を売りに下駄屋さんがやってきたり、年越しにはさかな売りがかれいやたらを売りにきて、家の炉端で焼いて食べたり……子供の頃読んだ時には、結構憧れみたいなものを抱きました。贅沢じゃない豊かさみたいなものを子供心に感じたんでしょうね。その中に、子供たちがまつぼっくりや梅の花を食べ物に見立てて外でままごとをしている場面があるんですが、そこにおばあちゃんが今でいうおやつを持ってやってくる。大きな梅干しが一つずつ載ったおにぎりなんです。おばあちゃんが握った。絵にはないんですが、それだけで何だかとてもおいしそうだなあ~と、そこを読むたびにおなかがすきます

 

一 寺山さんにとってのわくわくしあわせごはんとはどんなものですか?

 

寺山:わくわくしあわせごはん……特別なことではないんですが、旬が出はじめたときのごはんですね。ごはんなら新米とか、今ならそろそろ梅の時期で、子供たちとジュースつくったりとか。当たり前のことだけど、毎年わくわくするし、またわくわくする自分でいたいなと思います。